#2 その18 電源について(続き2)

 前回、説明した部品を使用して組上げた電源部(回路図は前々回を参照してください)の実測結果を紹介します。

(1)AC入力部。
 まず、AC100Vラインの実測です。以前も述べましたが、ビル全体の受電設備から直接、個別のブレーカ経由でコンセントに配線されていますが、同じフロアにPCが100台くらい、プリンタやネットワーク機器、計測器など多数のデジタル機器が稼働中です。ACケーブルも高級品から普及品までいろいろ試してみましたが、いろんなノイズが乗っていることが判ります。ノイズは無い方が理想的ですが、蒸留水を飲んでも美味しくないように「いい音」になるかどうかは音を聴く人が判断すべきと思います。ただし、メーカとしてはノイズで雰囲気をぶち壊さないよう、できるだけ混ざらないようにしておくべきと思っています。AC100Vに乗ってくる高周波ノイズの波形(AC100Vラインから0.1uF/1kVのフィルムコンデンサ経由で高周波分のみを抜き出しています)は写真-1を参照してください。60Hz(関西電力の地域ですので)?75kHzくらいまでのノイズがピークで5V程度乗っています。ちなみに、市販されている並列型ノイズフィルタ(Noise Harvester)を使用した場合の同じ条件の波形は写真-2です。このフィルタは家庭内のインバータなどから漏れて来るノイズを対象としているようで、PCなどのスイッチング電源などの高周波にはあまり有効ではないようです。
 ACラインフィルタ通過後のAC100Vの波形は写真-3です。高い周波数のノイズがカットされ、60Hzなどの低い周波数のノイズレベルもかなり改善されています。

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写真-1
写真-2
写真-3

(2)直流部。
 ダイオード2個で両波整流を行い、4700uFで平滑した非安定化直流波形が写真-4(AC成分のみ拡大)です。まだ、リップルが残っていますが、大容量コンデンサの威力でリップルの底の部分が8V以上あり、力が発揮されています。レギュレータの寄生発振もないようです。また、トロイダルトランスの二次側では、高い周波数のノイズがトランス自身の周波数特性によりカット(減衰)されていることがおわかりと思います。
 レギュレータの出力は+5Vの直流で寄生発振などはありませんが、10mVp-p程度のリップルノイズが混入しています。このリップルノイズはDC出力をOFFにしても同じレベルでDCラインに乗っています。AC100V電源ケーブルを外すと、このリップルが消えますのでGND(大地アース)線から回り込んでいるようです。基板上のGNDをラインフィルタのGNDに直接接続したり、金属製のシャーシ経由で接続したりしてみましたが大差はありませんでした。
 負荷を0.1A、0.25A、0.5A、1Aと変化させるとレギュレータの入力(整流ダイオードの出力)の電圧レベルが下がってきます。負荷を1Aとするとリップルの底が4V程度になってしまってDC出力もそのまま出てきてしまいます。トランスの容量から考えて元々無理ですので、負荷は500?600mA以下で使用すべきと思います。500mA負荷時のレギュレータの入力波形は写真-5です。リップルの底が8Vを割りかけており、レギュレータの性能から考えると、これくらいの負荷で使用すべきです。同時にレギュレータのヒートシンクの温度も測定してみましたが、45度程度で問題はありませんでした。

20071228_4
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写真-4(AC成分のみ拡大)
写真-5

 直流に高周波ノイズやインパルス性のノイズが乗っている場合は写真-6のような「DC電源ライン用ノイズフィルタ」を使用すればカットする(減衰させる)ことができます。今回の電源では写真-7(フィルタ挿入前)、写真-8(フィルタ挿入後)のように効果はありましたが、劇的な改善とまではゆきませんでしたので、このノイズフィルタは使用していません。

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写真-6
写真-7(フィルタ挿入前)
写真-8(フィルタ挿入後)

 デジタルオーディオ機器の電源部は三端子レギュレータ1個で簡単に済まされていることが多いのですが、基本に立ち返って検討し、試聴を繰り返すとなるとかなりの時間と労力を必要とします。さらに、メーカの場合はVCCIなどのEMI対策、PSEなどの安全対策を行わねばなりません。音楽を楽しんでいる最中に電解コンデンサがボーンと爆発して白い粉が部屋の中に飛び散るというのは興ざめですので、自作される場合でもきちんと設計・製作しておくことが肝要と思います。

 今年2月にスタートした本Blogも10ヶ月を経て、新しい年を迎えることになりました。本年中のご愛読ありがとうございました。また、何人かの方からはコメントを頂きありがとうございました。これからも頂いたコメントには本Blogで回答させていただきたいと考えています。時には新たに実験が必要になることもありますが、時間がかかってもなるべく正確に回答させていただくつもりです。
 DACの出力部のDCカットコンデンサやBatteryについて以前にコメントを頂いたkobaさんからは、フィルムコンデンサやBattery変更の結果のコメントを頂きました。オーディオマニアの特権で、ご自分の好みに合わせていろいろと改造していただくのは大歓迎です。どんな料理でも、最後には自分の好みに合わせて調味料を使うように、ご自分でチューニングされることは必要と思います。私たちメーカとしては「いい素材」を提供することが基本的な役割だと考えています。DAC kitやHDMI Audio Splitter kitにもご期待ください。

 オスカーピーターソンの訃報が昨日飛び込んできました。彼の音楽のように皆さんに楽しんでもらえる製品つくり、彼の音楽を楽しく聴いてもらえる製品つくり、そして皆さんで意見交換しながら楽しめるBlogを目指して来年も頑張りたいと思います。2008年はCESのAudioセッションの様子の紹介からはじめて、DACつくりやHDMI Audioなどの話題を中心に展開してゆく予定です。今回、紹介した電源部も部品セットやKitのような形で提供できたらとも考えていますので、よろしくお願いいたします。
 
 それでは、皆様よいお年をお迎えください。来年もよろしくお願い申し上げます。

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