【REX-Linkが生まれるまで】#8 “いい音”とは

 これまで「PCでいい音を」と言うことを何度も述べてきました。そこで今回は当社が考えている「いい音」ということについてふれてみたいと思います。

当社は#1でも述べたようにノートPC用のサウンドカードやREX-Link1、WHP1などの製品を提供してきました。
それらを開発する際には、通常のPC周辺機器のような互換性の検証や電気的な性能、機械的な強度などの客観的検証はもちろん、「使いやすさ」という主観的な官能面での検証も行ってきました。

さらにオーディオ機器の場合には「いい音」かどうかという一番大事な官能面での検証が必要になります。
また、当社の場合はメーカの立場として、1回に1,000台を生産した場合に1,000台すべてが同じ性能で同じ機能であることはもちろん、同じ音を出せなければなりません。
性能や機能は電気的に測定検証して一定のバラツキの範囲内に抑えることができますが、「同じ音」に揃えるというのは簡単にはゆきません。

オーディオ機器を選択する場合、本当は自分がいつも聴く環境で「聴いて見る」のが一番いいのですが、現実にはオーディオ専門誌などの試聴記事や評価記事、最近ではブログやNetでの評判を参考にすることになります。

それらの記事や意見では「力強い低音」「伸びやかな高音」などの表現から「張りのある音」「ヌケのよい音」「艶やかな音」など読者の想像力をかきたてるいろんな言葉が使われています。
読んだ人は実際に音を聴かずに想像するだけですので、知らない間に「特定のブランド名やモデル名」に対する音のイメージが出来上がって流布されてしまうということになります。
したがって、メーカが生産時に「同じ機種なら同じ音」を保証できないと、そうした音のイメージがまったく当てにならないことになってしまいます。

 当社の場合は、オーディオメーカとしてのブランドイメージはもちろん、オーディオメーカとしての歴史にもとづく「製品の音の特徴」というようなものもありません。
また、オーディオマニアやオーディオ雑誌、評論家、オーディオ専門店からご意見を頂く機会もありませんでしたので、今のところは自分たちで社内で音を聴いて「いいな」と思うほうを選択するというような方法をとっています。

 前置きが長くなりましたが、当社は「いい音」とは「聴く人が、いい音だなと思える音」だと思っています。
試作品の試聴にはいろんなジャンルの音楽を使用していますが、ビバルディの「四季」(イムジチ合奏団) のCDを例にして説明しましょう。
この曲は春夏秋冬それぞれのパートにわかれており、「春」では春の情景が目の前に浮かび上がってくるような音を再生できるアンプやスピーカ、プレーヤが「いい音を出す」と思っています。
つまり「いい音」とは聴いている人の目の前に情景を浮かび上がらせることができるような音ということになります。

もちろん、「春のイメージ」は人それぞれによって違いますから、同じ音を聴いても誰もが「春を想い出す」とは限りません。
それでも、再生機器を提供する側としては作曲家や演奏家と聴く人とのインターフェイスを提供するわけですから、作曲家や演奏家がイメージしていることが損なわれることなく、聴く人に伝わるようなものを提供したいと考えています。

 受験のために熊野から上京した中上健次は、新宿のジャズ喫茶で初めて聴いたアルバートアイラーのレコードに衝撃を受けてその後の人生で創作活動に入ったとのことです。
そうした感受性も各人各様ですから、同じレコードを聴いてもアルバートアイラーの音楽に感動すると同時に、「なんとすごい音を出すアンプなんだ、俺もいつかこれを超えるアンプを作ってやろう」と思って、工学部を受験してオーディオメーカで開発者になる道に進む人もいるかもしれません。
また、「なんとすごい音なんだ、俺もいつかこのスピーカを買えるようになろう」と思う人もいるかも知れません。

 当社もいつか、このような感動を与える「すごい音」をPC-Audioでも出せるような製品を出したいと思っています。
ただ「すごい音」というのはやはり音楽の感動ぬきには論じられません。
単に大きな音やズシンとくる低音だけを追求し、工事現場の音を臨場感たっぷりに再生できることを目的にしても意味がないと思っています。「リアルな再生音=原音再生=いい音」にばかりこだわっていると方向を誤ってしまう恐れがあります。

音楽に込められた感動も含めて聴く人に伝えられること。

当社は音楽を聴くためのインターフェイスを作っているのだという自覚が必要だと思います。その上で当社もユーザの皆さんも「いい音」だなと共感できるような製品を提供したいと考えています。

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