つい最近(2007年2月23日)発表されたRIAJ(日本レコード協会)のデータでは、2006年中の音楽のダウンロードによる販売額がCDシングルの販売額を追い抜いたそうです。
この数字の中のダウンロードには携帯電話の着信音用も含まれていますので、いわゆる「オーディオ」の世界でいう音楽とはすこし異なりますが、「音楽の楽しみ方や流通、配布の形態」が変化してきていることを示しています。
携帯電話だけでなくiPodに代表される携帯シリコンオーディオ機器が爆発的に普及し、それまでのCDやMD、カセットテープベースの携帯オーディオ機器にとってかわってしまったことも、こうした数字の大きな要因です。
これらのシリコンオーディオや音楽のダウンロードをもたらした革命的な技術、それが音楽データの圧縮・復元技術です。
元々は高速大容量デジタル通信を実現するために研究開発された技術ですが、進化して人の声やデータだけでなく音楽も扱えるようになりました。
研究主体も通信関係の研究者から画像も含めた放送技術の研究者へと変化し、MP3などのオーディオ圧縮規格が標準化されました。
しかし、最近では、こうした圧縮・復元技術が広まったことが「音楽を退化させている」と広言している人もいます。
Internetによる音楽の配布や流通は大きな革命です。
25年前(1982年)にCD(CDはそれまでのレコードとちがってデジタル録音)が発売された当時、ほとんどのオーディオ評論家は「音が悪い、音楽の大事なものが抜け落ちている」と酷評していました。
CDは元のアナログ波形を22.6757mS(44.1kHz)ごとにサンプリングし16bitのデジタルデータに変換し、20kHz以上の音域はカットしています。
このことが前記のような聴感の理論的裏付(?)となって、当時はオーディオマニアから総スカンでした。
しかし、その後CDの録音技術や再生技術(16bit/44.1kHzリニアPCMは不変ですが)やオーディオ機器が進歩し、今ではCDが当たり前でアナログレコードはビンテージとして残っているだけになっています。
こうしてCDという媒体が認められるまでには、「音楽を聴いて楽しむ側」にとっては欲しい音源がCDでしか手に入れられなかったこともありますが、再生技術や機器を研究・開発・製造して提供する側も「なんとかCDでアナログレコードを超えるいい音を出そう」と努力してきたことも貢献しています。
Internetによる音楽の配布や流通、圧縮・復元やPCを音楽の取り入れ口として使用することについても30年前のCDと同様と考えています。それだけでなく、この連載の3回目でも述べたようにマイナーな新進作曲家や演奏家にとっても機会が与えられますし、聴く方もそれらの音楽だけでなく復刻盤なども入手しやすくなります。
PC周辺機器メーカとして20年以上続けてきた当社としては「PCでいい音で音楽を楽しんでいただく」ために「CDを超えるいい音を出そう」と研究・開発を行い、そのようなPC周辺機器を提供して貢献したいと考えています。
ただし、当社では現時点で音楽データの圧縮や再生について次のように考えています。話をわかりやすくするために(逆に回りくどくしているかも知れませんが)、例をあげて説明してみます。
例えばワインの貯蔵庫からワインを選んで持ち出してくることを想定してみましょう。
液体のままでは途中で事故があってこぼしてしまっては元も子もないので、運びやすい形にするためにフリーズドライ(瞬間凍結)法によって粉末化して体積も圧縮したとします。これなら温度管理なども簡単で運びやすくなります。レストランで実際にワイングラスに注ぐ前に液体に戻すことになりますが、香りやコクが飛んでしまっているので添加物を追加してオリジナルに近いものを再現しようとします。
これは、最近よくAudioメーカが強調している「音質改善」とどこか似通っていませんか?
MP3などのオーディオファイルの圧縮技術はファイルサイズを小さくすることで運びやすくなりましたが、15kHzあたりを超える高音域をカットしています。
そのため、音楽を元に戻す際に15KHz以上の高域などを補正する技術が多く発表されています。
こうしてみると、フリーズドライで粉末化されたコーヒや濃縮ジュースを薄めて香料を追加したものを一口飲んだ時に味わう「あの感じ」とどこか共通しているとは思いませんか?
もちろん当社もソフトウェアやハードウェアの開発を行っている会社ですので、圧縮・復元の技術については常に評価や実験を繰り返しています。
今のところ、音楽のデータをPCで取り扱うには、ファイルサイズをコンパクトにして狭い通信帯域や少ない容量のメディアに収めるか、あるいはデータサイズはCDそのまま(1.422Mbps)で通信帯域を広げ、Mediaの容量をアップするか、というどちらかを選択せざるを得ないと考えています。
「PC-Audio」製品を企画、開発、販売する以上は、この選択肢は明確にしておかなければなりません。
当社としては後者を選択し、「CDの音楽データをそのままアンプやスピーカに伝える」ことで「いい音」を出そうと考え、新製品「REX-Link2」と「REX-WHP2」を開発したのです。