PCオーディオ実験室 第2回

CDリッピングドライブ用ケースを新たに発売しました

 コロナウイルス感染がやっと落ち着き(第5類指定で警戒がゆるんだだけ?)、海外からの旅行者数もコロナウイルス感染が広まる以前に戻りつつあります。ここ2,3年は感染流行のあおりを受けて半導体や電子部品の供給が止まってしまうという「ものづくり」にとっては大変な時期が続きました。昨年あたりから供給は回復しつつありますが今度は値上げが続いています。そのあおりでRaspberry Piの生産が止まってしまい、NWT01で使用しているRaspberry Pi CM3は未だに入手できない状況が続いています。オーディオ関連の電子機器の生産や供給も止まってしまい、その間にオーディオの世界では「アナログオーディオ」が復権し(それだけの理由ではありませんが)、最近のAudio関連のメディアではアナログレコードプレイヤーに関する記事が大きな比率を占めています。Digital Audio関連ではWirelessのイヤホンの話題がほとんどで、PCオーディオに関する話題(特にUSB DACなど)はほとんど見かけなくなってしまいました。アナログオーディオの音の良さ(ノイズやハム音が混じっていても「やっぱりいいな」と思える感覚?)はわかっていても肝心のアナログレコード(Vinyl Record)を持っていない、昔持っていたけど今はもう残っていないというオーディオ愛好者が多いのではないでしょうか。アナログレコードの生産枚数が増加しているとはいえ昔のような豊富なタイトルが発売されているわけではありません。PCオーディオやNetオーディオに軸足を移した(移してしまった)方にとってアナログレコードを音源としてA/D変換(24bit/96kHzなどのHi-Rezなどに)を行い、fileとして追加するという方法もありますが肝心の音源(アナログレコード)が少なければ現実的ではありません。さらにアナログレコードプレイヤーで再生した音と同じようになるかどうかはわかりません。

 このところPCオーディオやNetオーディオでは音源としてStreamingサブスクサービスが話題の中心ですがじっくり音楽を聴こうとすれば音源としてのCDは依然として大切ではないかと思います。SpotifyなどのStreamingは新しい楽曲に出会う(FM放送と同じく)という意味では重宝します。Spotifyで聴いて「いいな」と思ったらCDを購入するというスタイルをお勧めいたします。CDを購入するということは作曲した人や演奏した人々、CDの制作や発売にかかわった人々に対するリスペクトとともに音楽文化・オーディオ文化を継承してゆくうえでも大事なことだと思います。このことは音楽を聴くためのデバイスを提供する側としては当然のことと思います。ということでCDを音源とするためのCD Rippingについてもう一度Spotをあて、これまでの実験や試行錯誤の結果をふまえて新しいCD Ripping用ドライブケース(RAL-EC5U3R)を発売することとなりました。

<左が新発売のRAL-EC5U3R, 右が発売中のRP-EC5-U3AI>

新しい筐体と電源回路について

既存(RP-EC5シリーズ(RAL-EC5U3Pを除く)の5インチの光学ドライブ用のケースを改良してEC5U3AIのようにRipping用として制振を強化するという方法も検討しましたが金型の寿命やスイッチング電源の半導体の生産終了などの理由により新しく筐体や電源回路を設計しなおすことになり、それを機会にオーディオ用に特化したモデルを新しく作ることとなりました。実は私達とCDドライブ、ケースとの付き合いは長く30年以上になります。音楽用のCDをCD-ROMとしてPC用の記憶媒体としようという提案がMicrosoftやその他のPCメーカから出されCD-ROMのformatなどが決められました。私達はそのころ(1988年)から、音楽用CDドライブをPCに接続するためのSCSIインターフェイス(PC側、ドライブ側の両方)の開発、製造販売だけでなく、CDドライブとSCSIインターフェイス、DC+12V/5V電源回路を組み込んだケースの開発や製造販売にもかかわってきました。現在のRS-EC5-U3シリーズのバックパネルにはそのころの名残でSCSIコネクタ(アンフェノール50P)を取り付けるための大きな角アナが2個(SCSI機器はDaisy-chain,いもづる式接続なのでINとOUTの2個が必要)残っています(現在は金属プレートでふたをし、USB-Bコネクタ用のアナを空けています)。下の写真の上側の白い4Pinコネクタは実験用に外部からDC+12V/5Vを供給するためのものです。

<RP-EC5-U3AIのリアパネル。SCSIコネクタ(50P)のアナが残っている>

  初期の頃のケースはフロントベゼル以外のカバーなどは金属製でしたが、95年ころからはカバーも樹脂製となり現在に続いています。2010年にRALブランドのUSB-DACを発売するようになった頃から音源としてのCD Rippingに注目し、試行錯誤を繰り返して、重量級のカバー(1.6mm厚の鋼板)とセルダンパなどで音質向上を実現したRP-EC5-U3AIを発売、さらに振動対策のための頑丈な大型筐体やトランス式のアナログシリーズ電源を採用したRAL-EC5U3Pを発売しました。その後も試行錯誤と開発を続け、RAL-EC5U3Pよりは小型で低価格のRAL-EC5U3Rを発売することに至りました。筐体の幅はハーフサイズ(240㎜。RAL-EC5U3Pはフルサイズ・BTSラックサイズ480mm)とし、2.0mm厚のSPC(鋼板)によるフレーム、シャーシの構造はEC5U3Pから継承することとしました。サイズが半分になったため底板のX字強化リブは省略しました。

左右からがっちり抑えてドライブ自体の振動を抑える。

 CDは盤面にピットと呼ばれるくぼみとランド(平地)を内周から外周へらせん状(蚊取り線香のような渦巻状)に連続して並べることによって情報を記録しています。ひとつのピットの幅は0.5um,長さは連続するピットとの間のランド部を含めて0.83um~3.56umです。ピットとピットの間隔(トラックとトラックの間隔、渦巻状の線と線の間隔に相当)は1.6umです。この細いらせん状に配置されたピットを読み取ってゆきますので、CDの偏芯や振動による「ぶれ」は情報の読み取り精度に大きく影響します。特にCDはHDDのように中心軸にがっちりと固定されているわけではなく、ドライブの中心にある円錐の下部のようなスピンドルに押し付けられて固定されますので偏芯や回転振動によるガタツキの恐れがあり、読み取り精度に大きく影響します。またアナログレコードのように33.33rpmという低速ではなく、CDの場合は標準速(等倍)で約200rpm~530rpm(データ転送速度150kbit/Sec)という高速で回転します。さらにRipping時にはRippingソフトウェアによっては4倍速や16倍速などの高速でRippingを行う製品もあります。CDはCIRCと呼ばれるエラー訂正方法とインターリーブ(データの並び方を変更して配置する)により、キズやトラックのずれなどで読み取りに失敗した場合はエラー訂正と前後にならんでいるデータから推測して補間を行います。音楽再生時はエラー訂正や補間に失敗してもそのまま再生を続けますが(放送と同じ、時間優先のIsochronous)、Ripping時には正確な情報を得ることが必要なため少し前にヘッドを戻して読み込みなおします。このリトライ動作機能を持っているのはPioneerの一部のドライブのみで専用のPureReadというユーティリティでこの機能を設定しなければなりません。したがってCD Ripping用ケース(筐体)の設計時にはモータの回転振動やそれに起因するフレームやトレイの振動がCDメディアに影響しないように考える必要があります。偏芯は中心軸のチャックやトレイなどの機構の問題ですので筐体設計では解決することはできません。アナログレコードプレーヤの場合はインシュレータ(ばねやゴム、空気ばねなどで振動を吸収させるために設置台から浮かせるという方法が主流ですが、これは床(設置台)の振動がレコードの盤面やカンチレバー、トーンアームに影響しないように設計されています。しかし、CDドライブのように内蔵モータやCDの高速回転によって自らが振動源となる場合は床面の振動を伝えないことを目的としたインシュレータを採用すると自らが振動の発生源であるため逆に揺れが大きくなってしまいます。このような場合は質量のある物体にがっちり固定することによって振動を抑え込むほうが効果的です。そのような方針に基づいて設計したのがRS-EC5-U3AIです。既存の5インチ光学ドライブ用ケースのカバーを樹脂製から1.6㎜厚の鋼板に変更して振動を抑え込み、鋼板とドライブのスキマにセルダンパ(商品名)をはめ込みました。電源部はスイッチングレギュレータそのままですが、かなりの音質向上効果が認められ、現在にいたるまで10年近く販売が続いています。今回のRAL-EC5U3Rでは左右の2.0mm厚のブラケット(鋼板)でドライブを固定し、それを2.0mm厚のシャーシ(鋼板)に固定、全体を覆うカバーと併せてドライブが発する振動を抑え込むということにしました。EC5-U3AIよりもさらにRippingした音源の音質向上が認められるようになりましたが、残念ながら材料費や人件費(製造費用)がどんどん上昇し設計時の目標価格をかなり上回る結果となってしまいました。

<RAL-EC5U3Rの内部構造>

最新部品を使用した電源回路

 電源部は新たに設計した12Vから5VへのDC-DC降圧コンバータ基板と外部の12V/5Aの低ノイズACアダプタを併用することとしました。RAL-EC5U3Pでは物量作戦で大容量のカットコアトランスを2個使用したアナログシリーズ電源を採用しましたが、EC5U3Rでは価格を抑えるためにスイッチングレギュレータと外付けACアダプタを採用しました。DVD/BRドライブはDC+12VとDC+5Vの2種類の電源が必要でしかもそれぞれ2.5A、1.4A(パイオニアBDドライブ表示値)という大電流が必要です。DC+12VはACアダプタからの出力(DC+12V/5A)をDC-DCコンバータ基板上のリップルフィルタを通して供給し、DC+5Vは新たに設計したDC-DC降圧スイッチングレギュレータで生成してドライブに供給することにしました。スイッチングレギュレータは高効率でよいのですが、大電流を取り出す場合はリップルやスイッチング周波数に起因する高周波ノイズ、それに平滑用に電解コンデンサが必要になります。しかし電解コンデンサは大電流リップルに強くないので、内部の電解液の劣化による液漏れや容量抜けなどの経年変化に問題があります。また、リップル除去のために低ESR(等価抵抗・インピーダンス)値を稼ぐために大容量のものを何個か並列接続する必要があり故障の原因箇所を増やしてしまうことにつながってしまいます。効率を上げたり電解コンデンサやチョークコイルを小型のものにするためにはレギュレータの発振周波数を高くする必要がありますが、今度は高周波ノイズやその高調波に起因するノイズをまき散らすのでAudio用途に使用する機器としては悩ましいものがあります。最近では自動車用の電子機器向けにDC+12V/24Vを対象とした降圧スイッチングレギュレータChipや大容量MLCC(多層セラミックコンデンサ)、フィルタ用コイルが次々と発売され以前よりも高性能な電源部を実現できるようになりました。

<RAL-EC5U3R内蔵の降圧型DC-DCコンバータ/スイッチングレギュレータ基板>

 降圧型スイッチングレギュレータ(DC-DCコンバータ)の動作原理はICベンダ各社(ROHMやABLICなど)のHPで公開されている技術資料を参照してください。DC+12Vの入力をスイッチング(ON-OFF)して方形波を生成し、PWMタイプの場合はデューティ比を調整して出力電圧(DC+5V)を一定に保ちます。とは言え山頂部を削って谷を埋めて台地を造成するようなものですので表面が波打ったりして(リップル電流)なかなか平地とはなりません。ICの出力はコイルとコンデンサによる平滑回路でリップル成分を除去して平らにならされます。これまでは平滑コンデンサとして大容量の電解コンデンサが使用されてきましたが、大きなリップル電流を常時流していると発熱などで内部の電解液が劣化し、容量抜けなどのトラブルの元となります。またESR値を下げるため電解コンデンサを並列接続する方法がとられます。液体を使用しない個体電解コンデンサを採用するという方法もありますが、最近は液漏れとは無縁で熱にも強いMLCC(積層セラミックコンデンサ)の大容量タイプ(100uFなど)が簡単に入手できるようになり、密閉式の小型の充電器などにも使用されています。ただし、セラミックに電圧をかけるとスピーカとなってしまいます(スマホや携帯の内蔵スピーカはこの原理を利用したセラミックスピーカが使われています)ので、RAL-EC5U3Rの新しい電源部ではこの大容量MLCCの「鳴き」を抑えるために同じ容量のMLCCを逆方向(振動を打ち消させて「鳴き」を抑える)に重ねた製品を採用しています。PioneerのBDドライブに記載されているDC+12V/2.5A、DC+12V/1.4Aの負荷をかけて6時間連続通電した時点でのDC12V/DC5Vの出力波形は図のように大きなリップルもなく高周波ノイズも少ないものとなりました。

<DC+12V/2.5A、DC+5V/1.4A連続同時出力時のリップル,ノイズ波形、黄色が12V、緑が5V>

CD Rippingについてあらためて考えてみる

 PC Audioが一般に認められるようになり始めたころ、入門ユーザにとってCDをRippingしファイルとしてHDDやメモリーカードに保存するという「音源づくり」で躓いた方々が多かったように思います。さらにAudio用NASに保存するところでまた躓くことになります。次回はCD Rippingの方法についてRipping用Softwareの紹介も兼ねながら説明したいと思います 。

                                   19/Oct./2023 Admin.

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