#21 Digital Audioの伝送について(S/PDIF編 その1)

 前回のI2Sは機器内部でのLSI-LSI間のBusのようなものでしたが、S/PDIFは機器と機器の間でAudio信号を伝送するための信号です。Audio雑誌やAudio関連のHPやBlogなどでも、よく取り上げられていますが、単にコネクタやケーブルの紹介で終わっている記事が多く、私たちのように20年以上も、Digital信号の伝送で苦労してきた(失敗し続けて来た)側からの見解は少ないようです。私たちと同じような経験を持つ人達が、海外でもDigital Audioの伝送についていろいろ研究しているようで、その成果がCDのRipping(Error訂正のRetry付) → Memory → HD → Memory → DMA → Digital Transportation → DAC → Analog という経路を持つ機器として発売されるようになったと思います。
 そのような機器の中で、今年になって発売されたものにLINN KLIMAX DSがあります。この機器にはS/PDIFの入力や出力が排除されていますが、これは「せっかく、Errorなしでマスタレコーディング時のLPCMデータを引っ張ってきたのに、DACに入れる前にS/PDIFでErrorが出てしまったら意味がない」という意思表示だと思います。もちろん、S/PDIFはErrorの発生や「データ化け」が生じにくいよう工夫されており、Error検出機構もあります。しかし、Source Device → Sink Deviceへの一方通行で再送要求やフロー制御のプロトコル(通信手順)はありません。CDの読み出し時にはCIRCという方式で読み出したデータの一部のbitが化けても、「たぶん、この位置のbitが化けたのだろう」と周囲の状況から判断して訂正する機能が働いています。「データが化けて音を悪くしている」とバッシングされているCDの読み出しにもError訂正があり、RippingならRetry(Errorがなくなるまで何度か読み出す)こともできます。しかし、残念ながらS/PDIFにはError検出はあっても、訂正や再送はありません。その場合は、別の通信手段でSink DeviceからSource Deviceに、再送を要求するしかありませんが、トランスポートやDACには実装されていません。したがって、S/PDIFは現状では一方通行、フロー制御、再送なしと理解しておいてください。

 S/PDIFに関する詳しい話に入る前にHDMI Audio SplitterやDigital伝送に関して、以前Tさんからいただいたコメントについて、またechiさんからもコメントをいただいていますので、先に簡単に回答させていただきます。
 実は、HDMIのAudio信号も、S/PDIFのようにFrame(Packet)化された信号が映像信号の合間を縫うような形で、垂直帰線区間(垂直同期信号の前のブランク期間)に伝送されています。垂直帰線区間というのは、まだTVがブラウン管(CRT)を使用していたころの名残で、画面の左上端から走査線が描かれ、右下端に達すると、左上端に戻ります。その戻るX線(走査線)の軌跡が光らないように、その期間は映像信号をOFFにしていました。同様に水平走査線を左端から右端へ1本描いたあと、次の水平同期信号が来るまでに左端に戻らなければなりません。当然、その期間は走査線(帰線)が光らないように映像信号をOFFにする必要があります。こちらの方は水平帰線区間ということになります。

(1)Tさんからのコメントについて。
 Tさんからいただいたコメントの全文は(2008年2月14日 CESで見つけたもの その5)のコメント欄を参照してください。

 ご質問は
  「HDMI-Audioスプリッターのお話に戻りますが、現状は入力信号をPLLにて
   クロックを抽出する形式かと想像していますが(違っていたらすみません)、
   v1.4からオーディオ信号のフロー制御が搭載されるという噂もあるので、
   是非外部クロック入力も搭載していただけたら幸いです。」
 ということでした。
 
 ご指摘のように現状はAudio Info Packetに含まれる情報や、HDMI Source Deviceにより設定されるN値、CTS値をもとにPLLでClock Recovery(クロック抽出)を行い、Audio用のMaster Clockを作成しています。サンプリングクロックFsは本Splitterで使用しているHDMI Receiver(SiI9135A)の場合、Localで28.322MHzの水晶発振子を持っており、それを分周して作成しています。抽出したMCLKにそのサンプリングクロックの位相を合わせて(coherent)、Audio FIFOから受信したAudio Packetを取り出し、S/PDIF出力信号や、8ch.分のI2S出力を作成しています。1920x1080p@60Hz Deep Colorの映像信号の垂直帰線区間では、I2Sは最高でch.あたり192kHzのFsまで対応可能ですが、入力されたオリジナルのLPCM信号をアップサンプリングすることはできません。DSDやDTS-HD、Dolby-TrueHDなどのbit streamに関しては、また別の機会に触れることにします。
 フロー制御はHDMI 1.3aでは規定されていませんので実装していませんが、1.3aではHDMIコネクタのところで映像信号と音声信号のズレ(Lip Sync)が20mS以内というように規定されています。しかし、本機のようなSplitterでは分離した後のAudio信号と映像信号が全く別々に処理されますので、大画面の場合はAudio信号にDigital Delay(Lip Sync)を追加して音声を遅らせないと、音声の方が先に聞こえてしまうという現象が生じます。この機能をSplitterに内蔵させるかどうかは検討中です。

(2)echiさんから頂いたコメントについて。
 echiさんから頂いたコメントの全文は(2007年12月13日 その16)のコメント欄を参照してください。

 ご質問は
 「PCでEEPROM?の内容を変えられるとのことですが
  HDMIの24bit192kHz、7.1chのLPCMを
  フロント2chSPDIF、
  サラウンド2chSPDIF、
  サラウンドバック2chSPDIF、
  センター+サブウーハ2chSPDIF出力
  ということができることを期待しています。
  #もし著作権上SPDIFデジタルoutがマズイということでしたら、DACの前に改造用に
  3線シリアルのパターンをつくっておいていただければ自分でやります」
 ということですが、

 HDMIではAudio Info Packetのデータ部にAudioソースのch.数やSpeakerの配置に関する情報が含まれています。本SplitterではSourecがLPCM5.1ch、7.1chの場合、3または4組のI2S出力にマッピングして出力します。I2Sのままでは前記のように機器外部へ引っ張り出すことは問題がありますので、各2chずつをS/PDIFにまとめて出力するか、Wirelessで飛ばすか、あるいはDACでアナログ変換したものを出力する予定です。悩んでいるのはSub Woofer出力で、市販されているSub Wooferはほとんどがアンプ内蔵でアナログ入力のみに対応しています。したがって、Sub Woofer出力だけはDACを内蔵させて、アナログ固定にしようかとも考えています。また、全体のマスターVRをどうしようかと考えています。S/PDIFやWirelessなどのdigitalで直接出力する場合、Digital Volumeを通過させる必要があります。

 Tさんからのコメントの回答でも述べましたが、アップサンプリングは出来ませんので入力ソースがLPCM24bit192kHzであれば、そのまま出力されます。コンサートなどのライブ録画・録音のBDのように高bit、高fsのLPCMで記録されているものを再生すればOKと思います。
 PS3ではSACDのMulti Ch.のDSDがどのようにLPCMに変換されてHDMIから出力されるかは、まだ調べていませんが、PS3の変換結果に従うことになります。

 Audio出力formatの変換はPCを接続して、コマンドを送れば可能ですが、HDMI Source機器からのオリジナルのAudio formatのbit数拡張やアップサンプリング、圧縮信号のデコードなどはできません。Ch.の再マッピングは可能ですが、アンプやSpeakerの接続をその時その時で変更するわけではありませんので、あまり使用することはないと思います。

 今回も、かなり長文になってしまい申し訳ありません。S/PDIFの詳細な話は次回にさせていただきます。

#21 Digital Audioの伝送について(S/PDIF編 その1)」への1件のコメント

  1. いつも有益な情報をありがとうございます。
    ご質問なのですが、S/PDIF(同軸、ST、Toslink)やAES/EBUでSingleワイヤー/Quadスピード伝送での動作は音質上問題はないものなのでしょうか。
    Dualワイヤー/Doubleスピード伝送との厳密な比較をした事はないのですが、少ない経験上Singleワイヤー/Quadスピード伝送が良かった事がありません(元ソースは176.4kHz/24bit)。ダウンサンプリングしてSingleワイヤー/Doubleスピード伝送の方が良かった事もあったくらいです。
    もちろん私の場合には伝送方式以外の色々な要因が考えられますが、一般論としてQuadスピード伝送についてご意見がお聞かせ願えればと思います。
    と申しますのは、当該HDMI変換機を使用する際にQuadスピードデータをどのような方法で伝送する事がベストなのかが気になったからです。
    それとdCS社など十分に技術はありそうにも関わらず、頑なにQuadスピード伝送を採用しないメーカーが存在する事も規格的に問題があるのかもしれないと疑う一因です。
    DualAES端子を併設して頂ければベストではあるのですが・・・

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