PCオーディオ実験室 第一回
DACあれこれ フルエンシ-DAC FN1241 と PCM1704
2001年に発売されたiPodもとうとう先月末(2022年5月)で販売終了となりました。手許には初代から最後のiPod touchまで残っています。30PコネクタからLightningまでの対応機器をMFiの厳しい認定試験を受けながら開発してきたことが懐かしく思い出されます。2005年にはiPodの背中に「子泣き爺」のようにしがみついて2.4GHzでWirelessヘッドホン(8cmダイヤフラムの大型)に送信するという製品を発売しました。同じ2001年にはPC/Mac用のWireless Audio(2.4GHz)送受信機(REX-Link1)を発売、そのころからUSB Audio Class 1ドライバやUSB Audio processor(マイコン)のTAS1020B、DACなどを使った製品つくりや実験を繰り返してきました。20年間いろんな製品を提供してきましたが、昨年から世界的な半導体不足、電子部品のサプライチェーンの混乱などで製品が生産できない、また今年末に半導体が入手できても円安や需給の関係で価格が高騰し製品価格を値上げせざるを得ないという状況に陥っています。電源ChipやCPUだけでなく基板用のコネクタまでパーツショップの店頭にも在庫がありません。また半導体や部品だけでなくNetwork Audioのコアとして使っているRaspberry Pi CM3など全く入手できない状況が続いています。さらに困ったことに昨年、当社の基板実装委託先が隣接する化学製品工場の火災の延焼で預けていた部品が全焼してしまいました。X-MOS CPUやDAC,電源ICだけでなくPanasonicの音響機器用Chip Filmコンデンサ(5,000個、3,000個のリールごと)やニチコンの音響機器用コンデンサなどが灰になってしまいました。また、当社も入居していたビルの建替え工事のためちょうど1年前(20021年7月)に引っ越したためAudio関係の実験や開発、生産がままならない状況が続いています。
さて前置きが長くなりましたが、引っ越しの際にいろんな基板類や部品が出てきました。中にはAudioマニアの方々が探しているPCM1704Kなどを実装した基板、OPアンプや電源Chipの評価用に作った基板や特注で作ってもらった電源トランスなどがあります。それらを産廃として廃棄するのはしのびないので資料を添付して自作派のオーディオマニアの方々に提供して活用して頂こうということを始めました。今回は第一弾として「フルエンシ-DAC FN1241 + PCM1704K」DACモジュール基板について2枚一組(モノラルですのでL,R用)で実験をしてみたい方に提供(有償ですが)します。フルエンシ-DACに関してはWikiやGoogle検索で調べてください。PCM1704は伝説のマルチビットDACですのでこちらもNet検索で調べてください。今回のモジュールでは最高グレードのKランク品を使用しています。DACモジュールはPhoto#1のように50㎜ x 100mmのサイズ(モノラル)となっており、FN1241,CLD、PCM1704K、フィルタ部にはDipマイカコンデンサを実装しています。
モジュールの構成
フルエンシ-DAC FN1241はCDプレイヤ用に開発されたChipでDACを内蔵していますが本モジュールではFN1241内部のDACを使用せずフルエンシ―処理を行っているDSP部のみを利用し、外付けDACとしてPCM1704を使用するという贅沢な(?)構成となっています。PCM1704の入力信号は一般的なDACのようなI2Sなどとは違ってWordClock,Bitclock,Dataというユニークは信号入力方式となっており本来はDF1704という8倍オーバーサンプリングのデジタルフィルタDSPと組み合わせるように設計されています。FN1241も独自formatでフルエンシ処理済の信号を出力しますがこれまた独自フォーマットですので直接PCM1704 を接続することはできません。そのためブロック図のようにFN1241 とPCM1704の間にFPGAを挿入し、信号Formatの変換を行っています。
モジュール上にはこれらのChipに電源(+3.3V Logic,+5V Logic, +5V/-5V analog, +15V/-15V analog)を供給するためのLocal Regulator Chip(13年前は三端子レギュレータのSMT品しかありませんでした)と回路素子が搭載されています。FN1241もPCM1704もHardWired設定ですのでI2CやSPIなどの外部からの制御信号は必要ありません。本モジュールへの入出力は20Pコネクタ(入力側)と16P コネクタ(出力側)のみです。それぞれの端子配列と信号名は図-1、図-2を参照してください。マザーボード(キャリアボード)側のPinヘッダを挿入する際に16Pコネクタの左右を1列ずれると+15vレギュレータ(U11)の入力に-20VがかかってしまいU11が破壊されるだけでなく導通してしまうと他のChipも壊してしまうことになりますので注意して下さい。FN1241のHardWired設定は図-3を参考にして行って下さい。
必要な入出力信号と電源について
入力は44.1kHzか48kHzのI2S信号(bit長は16bit、24bitのいずれでも可、LRCLK(fsCLK)、BCLK、SDATA)の他に512fsのMCLKが必要です。信号レベルはFN1241の最大絶対定格がVDD(3.3V)+0.3Vですので3.3VCMOSレベルでOKです。したがって、Raspberry PiのI2S出力(GPIO)に直接接続することはできますが、Raspberry Piには512fsのMCLK出力がないため外部でSRC4392などの非同期サンプルレイトコンバータなどを使用して512fsのMCLKとそれに同期したI2S信号を作り直す必要があります。モジュールからの出力はアナログ信号ですのでアンプに接続して下さい。当方での実験はPhoto#2のようにRaspberry pi CM3を搭載したNWT01(CM3MB1)にSampling Rate Convertor(SRC4392P)を接続してMCLK入りのI2S信号を生成し、本モジュールに供給しています。モジュールに供給する電源はDC+5V、DC+18~20V。DC-18~20Vの三種類です。単純な整流後の電力ではなくリップルを除去し、できればレギュレータを通しておいて下さい。I2S信号とMCLKはUSB-DACなどからも取り出せますがMCLKは512fs(22.5792MHzもしくは24.576MHz)ですので配線に気を付けないと波形が乱れ他の信号との同期がとれなくなりギーンというような音がでて楽曲が正しく再生できなくなります。また左右のモジュールに同じ信号を供給しますので左右で信号の乱れに差ができないように注意して下さい。I2CやSPIの制御信号はありませんがRESET信号(‘L’アクティブ)が必要です。通常動作時は’H’レベルになるように外部でPullup(抵抗経由でResetドライブ回路のVDDに接続)しておいて下さい。モジュール上では74LVC1G07で受けていますので5VトレラントですがFN1241のI2S入力が3.3VレベルですのでSYSRESETN信号も+3.3VにPullupしておいたほうが安心と思います。これらの信号以外のキャリアボードの配線は電源とGND,アナログ出力、動作設定用のstaticな配線だけですのでオーディオ機器を作る際の一般的な留意点でOKです。
モジュールの提供方法について
24bit/96k、24bit/192kなど世の中がHigh-Rezに向かっている時代に44.1k(CD)と48k(DVD)しか対応していないこととChipの入手や価格面などでこのモジュールを組み込んだUSB-DACは結局商品化できませんでしたが、フルエンシとPCM1704の独特の音がしますので試してみようと思われる方はお問い合わせください。モジュールは動作確認済ですので不良交換や修理はできません。また15ペアしかありませんのでなくなり次第提供を終了します。回路図などの資料はRALのダウンロードページをご利用下さい。
購入の申し込みはe2e Storeの「ワケアリ品ページ」にお願いします。同ページには本モジュールの実験に便利な電源基板(+18V/-18V出力、+5V出力)、トロイダル電源トランス。USBDDC基板なども出品しています。Raspberry Piと接続するためのSRC4392基板はe2eの別のページにあります。
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