私達はその頃、ワイヤレスヘッドホン(REX-WHP1)の開発と並行してiPodに接続するための送信機の開発も行っていました。ヘッドホンと同時に発表、発売する計画も進行中だったのです。
送信機の電力をiPod本体から取るために、第3世代のiPodやiPod miniの30Pinコネクタからは3.3V最大100mA程度の電力は取り出せることを確認しました。しかし、30Pinコネクタの使用申請時にAppleのエンジニアに相談しましたが、当時は内蔵バッテリのもち時間が広告では8時間なのに、3時間くらいしかもたないということで訴訟騒ぎになっていたこともあって、"absolutely not!(絶対にダメ!)"と拒絶されてしまいました。そのため、iPodからの電力に頼ることなく送信機単独で最低でも12時間もつようなバッテリを内蔵させることにしました。
結局、バッテリはヘッドホンに採用したものと同じSONY製のLi-ion電池を採用しました。電池を内蔵させますので、当然のことですが充放電制御回路やオートシャットオフなどのファームウェアも組込む必要があります。また、第1世代、第2世代のiPodでも使用できるようにイヤホン端子から音楽信号を取り出して(ちなみに、著作権保護の観点からiPodからはデジタルで音楽は取り出せないような仕様になっています。30Pinコネクタを使用してもアナログ信号でしか取り出せません)、CDと同じ44.1KHzでサンプリングを行い、CDと同じ左右それぞれ16bitのリニアPCM信号を生成するA/Dコンバータも内蔵させる必要があります。
それらを、iPod miniと同じサイズのプラスチック製ケース(金属製ではアンテナを外に出す必要がありますので)を作成して収納することにしました。当然、また金型作成費用が必要です。iPodの外観に合わせるため色は白、表面の仕上げも同じようにするために金型の内側にメッキを施しました。
2ヵ月後にできあがった、ケースの’試し打ち’サンプルを見ると、なかなか綺麗に出来上がっていました。しかし、問題はどうやって、iPodと一体化するかということでした。iPodとはAudio用のケーブル1本でつながっているだけですので、そのままでは持ちにくく、携帯性はゼロです。他社の製品のように、iPodの背面にマジックテープで貼り付けるという荒っぽくイージーな方法もありましたが、あのピカピカに磨き上げられた背面や、自分の名前やApple logoが彫刻されている上にマジックテープを貼り付けるというのは、もし私達自身がiPodのオーナーだったらと考えると嫌なものです。そのため、iPodと送信機を重ねてポコンとはめ込めば合体できる’クランプ’を作成することにしました。
クランプの手作り試作品を使用して、iPodを接続した送信機とヘッドホン間で送受信テストを繰り返しおこないました。