スピーカーとヘッドホンでの音の感じ方を通して、「いい音」と思えるヘッドホンを探すためには、基準となるヘッドホンや音楽(CD)をだいたい決めておかねばならないということがわかりました。
CDを決めるとなると、こんどはどのように録音されたのかということも気になってきます。演奏会場などで、スピーカーなどは2チャンネル(Stereo)になっているのに、司会者のマイクが1本で、左右のスピーカーから同じ音量の音が出ている場合、目をつぶっていると司会者が舞台の袖にいても前方中央にいるように聞こえます。これは1本のマイクで拾った音を、そのまま左右のチャンネルに流しているためです。左右のスピーカーから再生して、位置関係がわかるように左右で音量差や時間差、位相差をつけるためには、左右それぞれの合計ふたつのマイクで録音する必要があります。工学的には左右それぞれのマイクが1対1でスピーカーに対応しているものをステレオ(Stereophonic)と呼ぶようです。録音する場合、二つのマイクをあまり離しすぎると、中央部が何もないような音になってしまいますので、通常は左右10cmくらいまでの間隔で離して録音するようですが、録音したものを再生すると双眼鏡で覗いているような感じになりやすいので、ほとんどのCDは個々の楽器や歌手などの音源を個々のマイクで拾って、左右2チャンネルにミキシングしながら制作されています。
一方、これまで説明したようにスピーカーとヘッドホンの音の聞こえ方の違いにこだわると、ヘッドホンで聴いた場合に最適になるように録音するという方法もあります。その方法はバイノーラル(Binaural)という方法で図のように左右それぞれのマイクの位置を私達の鼓膜の位置に相当する部分に設置して録音する方法です。実際には人間の頭の原寸大のダミーヘッドと呼ばれるものにマイクを埋め込んで録音します。骨伝導や耳道(鼓道)のことを厳密に考えなければ東急ハンズなどで売っている発泡スチロール製のダミーヘッドを買ってきて自分で作ることもできます。バイノーラルはこの方式で録音されたCDなどが少ない(あまり見かけません)こともあって知らない人が多いのですが、工学的には頭部伝達関数(HRTF)など、音波の人体内部の反射や回析が研究されており、ヘッドホンの設計などにも活用されているようです。internet上でもいろんな議論がされていますので興味のある方はご覧ください。人によってはバイノーラル録音された音楽をヘッドホンで聴く方が、スピーカーで聴くよりは「いい音」がすると主張されています。しかし、いろんな音楽を聴いて楽しむためには、録音エンジニアのミキシングを信じて、時にはスピーカーで、時にはヘッドホンで聴くしかありませんので、ヘッドホンで聴いた場合に、「いい音」だと感じていただける製品をつくるのが私達のテーマです。
ちなみにPC(Windows)のコントロールパネルの「サウンドとオーディオデバイスのプロパティ」で「オーディオの詳細プロパティ」を開くと「スピーカーの種類」を選択することができるようになっています。ここで「ステレオヘッドホン」を選択してみてください。左右のチャンネルの音をすこしずつミキシングしてスピーカーで聴いた場合と距離感や定位に違和感を感じないように補正されていると思います。
私達はこういう実験や研究から、DSP(デジタル信号プロセッサ、音声や画像の圧縮や復元に使用されているCPUの一種です)で、わざと位相差や音量差、時間差を作り出して音の立体感を作り出すということも実験しています。
実験や研究の成果はREX-Linkシリーズの製品として、また皆様のお目(耳)にかかると思います。