ワイヤレスヘッドホンをつくる その8 髪の毛をチリチリにしないために…電池で苦労する<後編>

安全性電池の容量サイズ配置、さまざまな面に配慮し、REX-WHP1ヘッドホンの内蔵電池としてはLi-ion電池を採用しようということになりました。また、iPod程度の電池のもち時間(連続11時間)を実現するために、当時のiPodに内蔵されているのと同じようなサイズ(1150mAh)のLi-ion電池を採用することにしました。この電池なら、電圧も3.7Vあり、LDO(低電圧降下)タイプのレギュレータを使用すればレギュレータ自身でのロスも少なく、安定した3.3V電源が作れそうです。外形も円筒型のものもありますが、PCカードやCFカードのような大きさと厚さをした製品を採用することにしました。重量も軽く、ヘッドホンのハウジングに内蔵させるのに最適で、左右の重量やハウジングの内容積もバランスをとりやすくなります。
 Li-ion電池はこのようにいいことばかりではなく、価格の面や供給面(基本的に外形は個別の特注仕様なので、大量注文が必要)で問題があるだけでなく、使い方を誤ると発熱、発火するという大問題があります。ヘッドホンの場合、使用中に発熱して、発火したりすると、プラスチックのハウジングの変形という事故だけではなく、装着中であれば顔や耳を火傷させてしまったり、髪の毛をチリチリにしてしまう危険性があります。事故が多い充電中はACアダプタを接続しているので、頭上に装着しているケースが少ないとは言え、発火事故を起こすと大変なことになります。単なる「液漏れ」では洗えば落とせますが、火傷はそういうわけにはゆきません。

 私達のヘッドホンで採用したSONY製のLi-ion電池は、内部に過電流防止などの制御を行うICなどが組込まれており、安心して使用できますが、それでも私達が設計した基板上の充放電回路にミスがあると事故をひき起こす可能性があります。いろいろと調査したり、実験をしたり、ランニングテストを行ったり、電池メーカのアドバイスを受けたりしながら、REX-WHP1の電池まわりの基板を作成しました。この基板と電池はREX-WHP1の左側のハウジングに収納されています。
 幸い、製造以来2年半以上経過しましたが、発熱や発火事故は皆無です。昨年、世間を騒がせたPCの発火事故の後、私達も在庫品をすべてチェックし、電池メーカにも提出して調査してもらいましたが問題はありませんでした。しかし、電池は充電や放電を繰り返すと、徐々に充電してもすぐ空になるという性質(寿命?)がありますので、今後も継続して実験を続け、REX-WHP1やREX-WHP2を愛用していただいている皆様に安心してお使い続けていただけるよう、より安全にLi-ion電池を使いこなすための経験を積み重ねてゆきたいと考えています。

 電池や基板が完成すると、いよいよヘッドホンに組込んで左右のバランス高音域低音域などの音の出方を調整する「音質調整」や、落下輸送時の衝撃、ユーザの手荒い取扱に耐えるかどうかということを調べて改良するための「強度試験」が始まります。強度試験では実際に50セットほどのヘッドホンを壊して、いろいろ調べます。もちろん、ヘッドホンメーカーでこれらの調整や試験を行う前に、電気回路(基板)は完全に動作するよう、無線部分を含めて電気的に性能が出ているか検査しておく必要があります。当然ですが、検査のためには検査プログラムや、試験用の信号を出すソフトウェア試験用のファームウェア、それらの書込みプログラムなど用意するものが一杯あります。海外のワイヤレスヘッドホンメーカから完成品を購入して、ブランドを付け替えて販売するだけであれば、こういう苦労とは一切無縁ですが、それでは私達も「ものつくりの喜び」を味わえませんし、購入していただいた方にも「使う楽しみ、所有するよろこび」を味わっていただけません。
 
 ワイヤレスヘッドホン、しかも「いい音がする」ものをつくろうなどと大それたことを考えて突っ走るというのはイバラの道を突っ走っているようなものですが、出来上がった試作品のヘッドホンで、最初に自分の好きな曲がノイズもなく、期待していたような音で聴こえた時の喜びは何ものにも替えがたいものです。

 やっと音はでましたが、まだまだイバラの道は続きます。

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