#29 HDMIのAudio伝送について その3

 前回、HDMI Cableのカテゴリについてふれましたが少々、補足をしておきたいと思います。今年(2008年)10月18日で1年前に公表された「HDMI仕様表記ガイドライン」の猶予期間が切れましたので、12月現在では表記方法が変更されています。Cat1は「Standard HDMIケーブル」と表記され、74.25MHz(1080i)の信号テストに合格した(!)ことを示すとのことです。Cat2は「High Speed HDMIケーブル」と表記され、340MHzの信号テストに合格した(!)ことを示すとのことです。先週、量販店に行くとHDMIロゴ付のケーブルにHigh Speedのステッカーが貼り付けられた製品が目立ちました。でも、つい一か月ほど前までCat表示も何もなかった同じケーブルのパッケージに急遽、ステッカーが貼られていると「ほんと?」という気がしないこともありません。
 この種の認証テストで合格させた後、実際に量産されて店頭で販売されているものを覆面購入し、実測して申請時の測定結果と異なる場合にイエローカードやレッドカードを出しているのはモデムなどの技術適合認定を行っているJATEくらいのもので、他の認証機関は申請時にPassすればあとはほったらかしのところが多く、おおもとのメーカの良心まかせですので、購入時にはご注意ください。

2. Audio信号はいつ送られているのか。

 HDMIではサンプリングされたAudio信号が専用の信号線ではなく、Video信号と同じ信号線で送られます。内容やタイミングが異なる複数の信号を1本の信号線で伝送する方法はいろいろありますが、HDMIではそれぞれの信号が占有する時間を分割して伝送しています。以前にも述べましたが、映像系の伝送はCRTで映像を表示させるためのテクノロジーが基本となっていますので、1フレームを表示させる信号には垂直ブランク期間(帰線区間)、水平ブランク期間(帰線区間)という映像信号が存在しない区間があります。HDMIではこれをうまく利用して、図-29-1のように1フレームごとのデータ伝送をビデオ・データ区間、データ・アイランド区間、コントロール区間の3種類に分けて伝送を行っています。

Visio_fig29_1dec2008
図-29-1 1フレームのデータ・ストリームの伝送区間

HDMIの仕様書では720x480pの図が例として記載されていますが、今更720×480でもないのでそれをもとに1920x1080pのピクセル、ライン数でまとめてみました。なお、図ではアクティブ・ビデオ・データエリアがきちんと右下に収まっていますが、実際はHDMI Transmitter LSIのDEコントロールレジスタに適当な値を設定して表示開始領域を調整しないと表示される画像の上下左右が欠けたり、位置がずれたりします。したがって、実際の図はアクティブ・ビデオ・データが図-29-1にくらべてやや左、上の方向に移動しています。また、1080i(TVのカタログや説明書では1125iという名称が多く使われていますが)の場合はライン数が1125ではなく1124です。水平走査線1本あたりの伝送区間の様子は図-29-2を参照してください。

Visio_fig29_2dec2008
図-29-2 1本の水平走査線上のデータストリーム構造

前回の図-28-1(図-1)のように、TMDSの各チャネルにはVideo(ピクセルデータ)やAudioのサンプリング信号などが割り当てられています。Video信号は各チャンネルあたり8bitですので、通常の24bit Colorの場合は1TMDSクロックで送信できますが、Deep Colorなどの36bit(12bit x 3) Colorの場合は図-29-3のようにピクセルクロック2個分を8, 4+4, 8のように分割、合成を行い、8bitデータ3個を作成します。

Visio_fig29_3dec2008
図-29-3 各色8bit以上のVideoデータの伝送

分割された4bitが同じピクセルクロック期間中に間に合わないといけませんので、TMDSクロックをピクセルクロックの3/2倍にして送信します。

 各チャネルあたり2bitの同期信号(Hsync,Vsync)、コントロール信号はコントロール区間内に伝送されます。 各チャネルあたり4bitのパケットヘッダやAudioサンプリングデータおよびInfoパケットの本体などのその他のデータはデータ・アイランド区間内に伝送されます。この区間内のデータは特別に伝送エラー耐性を強化するため、TMDS専用のTMDS Error Reduction Coding(TDERC4)と呼ばれる方式でエンコードされます。Videoデータ区間の誤り発生率が10のマイナス9乗以下ですので、Audioサンプリングデータはそれ以上の低い誤り発生率というのがHDMIの謳い文句です。こんなに苦労しているのに「HDMIは音が悪い」で切り捨てられては浮かばれません。何とかしましょう。HDMIでもいい音を、これが私たちのスローガンです。

 コントロール、データアイランド、Videoデータの各区間の切れ目には、区間が切り替わることをReceiver LSIに通知するための特別なプリアンブルやガードバンドと呼ばれる特別なbit列がありますが、LSIを設計するわけではありませんのでここではふれません。今回の内容を一言でまとめれば、「Audio信号はいつ送られているのか? –> 水平ブランク期間内のデータ・アイランドと呼ばれる区間で伝送されています。」ということになります。さらに映像と同期させるためには1フレーム(コマ)単位で、そのフレームの映像に合った音声を遅延なく伝送しなければならないのでそのための工夫がいろいろとなされています。

 次回は「Audio信号はどのように送られているのか。」ということでAudio Data packetについて説明します。

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