ワイヤレス ヘッドホンをつくる その4 ステレオとバイノーラルの話<1>

 ワイヤレスヘッドホンをつくるために、ヘッドホン探しや実験をいろいろ続けているうちに面白いことに気付きました。皆さんはヘッドホンで音楽を聴いた場合、どんな風に感じますか? スピーカーで音楽を聴いた場合比べて違う感じを受けませんか? 「いい音」のするヘッドホンユニットを探し回るためには、試聴した時に「あっ、いい音だ」と直感できるようなヘッドホンに出会った際に、私たちの内部に「いい音」の基準がなければ選定することができません。問題はその基準のほうで、いつもスピーカーで音楽を聴いていて、スピーカーで聴いた音との比較ヘッドホンを選ぶというのは、ちょっと違うのではないかと感じるようになりました。
 スピーカーとヘッドホンでは当然、駆動するアンプも違いますが一番大きな違いは、スピーカーの場合、室内の反射音や残響音などいろんな音がみんな、聴いている私達の両方の耳に飛び込んでくることです。これに対し、ヘッドホンの場合は耳もとのドライバユニットから外耳道を通って左右それぞれの鼓膜に直接伝わります(オープンエアタイプのヘッドホンの場合は外部の音が聞こえますが、それは別の音源です。また、ヘッドホンから頭の骨伝導や人体内部の反射など工学的にはいろいろと頭部伝達関数などで定義されているようですが、今は無視してください)。

 CD(ステレオ)の音楽を聴いてみた感じですぐわかることは、スピーカーで聴いた場合、一般的には左Ch.と右Ch.のふたつのスピーカーユニットで正面から聴きますから、ある程度以上の再生装置で聴くと目の前にパッと音が拡がるという感じは経験されていると思います。たとえば、最近の大画面薄型TVをお持ちの方はステレオ放送のCMになるとパッと音が拡がるというのを体験されているのはないでしょうか。これに対し、ヘッドホンで聴くと、頭のてっぺんから音が聞こえる感じがしたり、高級ヘッドホンで聴いても、後頭部の下のほうで音がふわっと広がるような感じを受けると思います。この感じはスピーカーからの音を反対方向を向いて聴いた場合の感じとも違います。
 私達が普通にステレオと言っているのは、正確にはステレオフォニック(Stereophonic)を省略したもので、ご存知のように左側の音を出す系統と右側の系統の2チャンネルで構成されています。理想的には再生時に左右ふたつのスピーカーを正三角形の一辺の両側に配置して、それに対峙する頂点に私達がいるという配置で聴くことになります。工学的には1辺が3mの正三角形が望ましいとされているようですので、日本家屋では8畳間を占領する必要があり、私達には理想的環境で聴くことは無理かも知れません。
 ステレオ音声をスピーカーで聴く臨場感や立体感が得られるのは、私達の耳がもともと左右の耳(鼓膜)に飛び込んでくる音の時間差、位相差、大きさ(音量)を感じ取って頭のなかで組み合わせ、音源との距離感、音源との位置関係を把握しているということを利用しているからです。左右ふたつのスピーカーがそれぞれ自分の右側、左側にあるという位置関係を把握できるのも、左右の耳に届く音の時間差や音量差を感じているからなのです。また、実際に音楽を聴くと、右側のスピーカーから出ている音も左の耳に入ってきますし、その反対に左側のスピーカーから出ている音も右の耳にはいってきます。さらにそれぞれのスピーカーから出た音が左右の壁や天井、床、家具などで反射・共鳴した音も両方の耳に時間差や位相差、音量差をともなって飛び込んできます。そしてなによりも私達は自分の現在位置を基準にしてスピーカーがどこにあるかということを、それらの情報をもとに、常に判断しています。同時に、このような状況で音楽から感動を得たり、「いい音」を感じたりしているわけです。
 一方、ヘッドホンで聴く場合はどうでしょうか、右側のドライバユニットから出た音は右側の鼓膜にしか届きません(この際、骨伝導やエウスタキオ管を通して喉経由で裏側でつながっているということは無視してください)。左側も同様です。そうすると、録音にもよりますが、元の演奏時の楽器の位置や距離感(配置)などを把握するのがむずかしくなり、スピーカーで聴いた場合と異なった感じを受けるのは当然です。また、部屋の反射や残響もありませんのでさらに感じが違ってきます。当然のことですが、ヘッドホンの場合は部屋の反射や残響に影響されません。工学的にはヘッドホン(イヤホン)でステレオ録音された音を聴くことをバイフォニック(Biphonic)というそうですが、世間一般ではステレオヘッドホンで通用していますので、本Blogではヘッドホンもステレオとしておきます。

 ということで、「いい音」と思えるヘッドホンを探すためには、基準となるヘッドホンや音楽(CD)をだいたい決めておかねばならないということがわかりました。

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